IHS Markit オートモーティブ シニアアナリスト
日本地域におけるパワートレイン予測を担当するアナリストとして活動。
日系OEMでパワートレイン研究開発に5年間従事した後、IHS Markitに入社。
東京工業大学で機械工学修士を取得。
中国のデュアルクレジット規制
NEVとは、「New Energy Vehicle=新エネルギー車」のことであり、具体的にはBEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)が該当する。NEV規制は、中国国内で自動車を3万台以上生産、または輸入する企業に対し、ある比率以上のNEVの販売台数を課すものだ。
一方、CAFC規制は「企業平均燃費」を規制し、自動車の生産/輸入台数が2000台以上の企業が対象となる。そのため、台数が2000台以上、3万台未満の場合は、CAFC規制のみ遵守すれば良い。これらの規制は、MIIT(中国人民共和国工業情報化部)が管理している。
管理項目については、名称のとおり、クレジットをポイント形式で管理することが基本ルールだ。NEVクレジットは、原則的には翌年への繰り越しはできないが、企業同士での取引はできる。また、CAFCクレジットへの等価転用も可能だ。
CAFCクレジットのほうは、3年先まで繰り越しができ、企業同士での取引が可能だ。また、NEVの生産を多くするほどCAFC規制の基準が緩和される。CAFCクレジットは「CAFC目標値-CAFC実績値×生産台数(または輸入台数)」で決定される。
現行NEVにおけるNEVとnon-NEVの規制ルール
NEV規制では、車両をNEV(BEV、PHV、FCV)と、NEV以外のnon-NEVに分類して考えるのが原則だ。もちろん、NEVを生産すればNEVクレジットが与えられるが、これはNEVの種類、電動航続距離(E-Range)、電費などのファクターにより決まる。NEVクレジットの計算法は、BEV、PHV、FCVによって異なるものの、共通式としては「NEVクレジット=ベースクレジット×効率係数(BEVの場合は0.5/1.0/1.2)」で決定される。
「性能が悪い電費(効率係数0.5)で得られたクレジットについては、他社と取引することはできません。一方、性能のよい電費(効率係数1.2)の車両は、効率係数が高いため、クレジットも多く得られることになります」(高崎氏)。
次に、non-NEVの車両を生産した場合を考えよう。この場合は、NEVクレジットによって穴埋めしなければならない「義務クレジット」(IHSマークイットがわかりやすくするための独自の命名であり、法規文にこの言葉が記載されているわけではない。以下同)が発生してしまう。
このクレジットは「non-NEVの車両の車両台数×毎年決定される要求比率」(たとえば2019年は10%)によって決まる。義務クレジットは、基本的にNEVクレジットで穴埋めすることになるが、それができない企業もある。その場合は、前出のように他社より余剰分のNEVクレジットを購入できる。
新NEV規制ドラフト案の更新された内容とは?
これまで説明してきた現行NEV規制は、2020年までに適用されるものだ。それ以降の規制については、昨年にドラフトが発表され、まだ最終案は決定されていない。そのため、今後もルールが変更される可能性は十分にあるだろう。では、現時点での新NEV規制内容はどうなっているのだろう? NEV規制が強化される背景には、エネルギーの節約、環境保護、自動車産業の健全な発展といったことが挙げられるため、現行NEV規制よりも、新規制はさらに厳しくなる。
「これは、non-NEV要求比率(義務クレジットに掛ける比率)が、2020年以降から毎年2%ずつ上がっていくことでも理解できます。つまり、ある企業が毎年同じだけnon-NEV車両を生産すると、発生する義務クレジットも増加します。また、得られるNEVクレジットも半減してしまいます」(高崎氏)。
さらに新規制では、やっかいな問題がある。現行規制では電費を計測する際に「NEDC」と呼ばれるテストサイクルを利用しているが、新規制により中国独自の「CLTC-P」というサイクルに変更されるのだ(BEV/FCV以外はWLTCに変更)。
「CLTC-Pでは、一定速度の走行比率が減少し、加減速の走行率が増加しています。一般的に一定区間を走るとき、一定速度のほうが電費やE-Rangeの結果は良くなります。そうなると、CLTC-PのほうがE-Rangeと電費の計測値が悪化するため、さらにNEVクレジットが減少する可能性があります」(高崎氏)。
また新NEV規制では、BEV効率係数(EC)も厳格化される。現行の効率係数は0.5/1.0/1.2だが、新NEV規制ではより良い電費性能が求められるという。
「2019年に現行NEV規制で販売されたBEV電費は、ほとんどの車種で効率係数1.0以上を獲得できています。しかし、これらのBEVを新NEV規制の下で販売すると、効率係数が0.5になってしまう電費の車種が増えてしまいます」(高崎氏)。
また効率係数ECではなく、最終的に得られるBEV獲得クレジットから見ても、現行BEV性能のままでは、獲得クレジットは大幅に減少してしまうのだ。
【次ページ】新NEV規制では、BEVだけでなくPHEVも厳格化の対象
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June 16, 2020 at 04:10AM
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