桜島「大正噴火」の教訓重く 108年前に多数の犠牲 避難訴える「科学不信の碑」 ｜熊本日日新聞社 - 熊本日日新聞

　桜島港フェリーターミナルから海岸沿いを南へ約６キロ。大正噴火でできた小高い溶岩原を越えて、湯乃［ゆの］地区の東桜島小に着いた。児童数３４人の小規模の小学校。校庭の海側の片隅に、目指す記念碑はひっそりと立っていた。表は「桜島爆発記念碑」と何の変哲もない。だが裏側に刻まれた長い碑文には、強い悔恨の情と、ある施設への激しい非難の思いが込められている。「科学不信の碑」とも言われる、あまり穏やかでない碑はなぜ造られたのか？

　時は大正噴火前日の１４年１月１１日にさかのぼる。桜島周辺で昨年末から度々起きている地震は、さらに頻度と強さを増していた。不気味な山からの鳴動も頻繁に聞こえるようになった。東桜島村の川上福次郎村長は、大きな噴火を心配し、対岸にあった鹿児島測候所に電話で何度も問い合わせる。測候所の回答は、「地震の震源地は鹿児島市の北。桜島に危険はない」。川上村長は安心し、その判断を固く信じた。慌てて避難しようとする住民に対しては「逃げる必要はない。ばかげたことをするな」と説得して回っている。

　翌１２日１０時すぎ、桜島は火を噴いた。噴火は山腹の２カ所（引ノ平付近と鍋山付近）から始まり、猛烈な噴煙と噴石を噴出し始めた。そののち、この山腹２カ所から１カ月間で約１・５立方キロメートルの溶岩が流れ出し、海岸の五つの集落をのみ込む大惨事になっている。湯之地区は、この二つの噴火地区の間にあり、挟み撃ちに遭った格好になった。

　逃げ場を失って生命の危険を感じた村長ら役場職員や住民は、沖合の沖小島まで泳いで渡ろうと、無謀にも真冬の冷え切った海に入った。川上村長は幸い船に救われたが、収入役らが亡くなっている。桜島町郷土誌（８８年発行）によると、『東桜島村の行方不明者（２３人）のほとんどが凍死した者であった』と記されている。村長は測候所の「噴火はない」という予測を妄信したこと悔い、「何としても後世に教訓を残したい」と碑の建立を懇願した（遺志を引き継いだ次の村長時の２４年に完成）。

　碑文には、『（略）住民ハ理論ニ信頼セズ、異変ヲ認知スル時ハ、未前ニ避難ノ用意、尤［もっと］モ肝要トシ（略）何時変災ニ値［あう］モ、路途ニ迷ワザル覚悟ナカルベカラズ。（略）』とある。「理論」とぼかしているが、暗に測候所のことを指し、「周りの状況から命が危ないと思ったら自分の判断で迷わず逃げよ」と強く訴えている。長船［おさふね］祐介同校長（５８）は「将来の桜島を担う子どもたちに伝えたいと、小学校の校庭に碑を立てたのではないか」と推察している。

　同校では、全児童が碑文を暗唱。校内の学習発表会や地域の文化祭で発表している。「碑を残した人の思いを伝えていくことは大事。碑文の意味を理解して、行動できる大人になってほしい」と長船校長。

　島を車で一周した。東側の黒神地区の「黒神埋没鳥居」には目を奪われた。大正噴火で噴出した軽石や火山灰で、約３メートルあった鳥居が、わずか２日間で２メートル埋まったという。すぐ近くには、４６年の昭和噴火で流出した溶岩跡があり、生々しかった。

　島民に大災害をもたらした大正溶岩だが、観光資源としての活用も進んでいる。溶岩原の上に展望所や公園、遊歩道などが造られ、流出当時のままのゴツゴツした溶岩を間近で見学できる。「桜島ビジターセンター」では、島や噴火の歴史などを詳しく知ることができる。「桜島溶岩なぎさ公園」には、全長約１００メートルの日本最大級の足湯も。家族連れやカップルが流れる温泉に素足を入れて、気持ち良さそうにくつろいでいた。

◇桜島　面積約７７平方キロのほぼ円形の複合成層火山。周囲約５５キロ。約２万９０００年前、姶良［あいら］火山の巨大噴火でできた姶良カルデラの南縁にできた、比較的新しい火山。標高１１１７メートル（北岳）。いま活動が盛んで、噴煙をはいているのは南岳（１０４０メートル）の山頂火口。噴火警戒レベル３（入山規制）が続いている。約４８００人が農業などで暮らす。水はけの良い火山土を利用した桜島大根や桜島小みかんが特産。

◇大正噴火　文明噴火（１４７１～１４７６年）、安永噴火（１７７９～１７８２年）に続く大噴火。死者５８人。１２日の夕方には、Ｍ７・１の大地震も。対岸の鹿児島市街地では「津波や毒ガスがくる」というデマが広がり、市民が郊外に逃げ出すさわぎもあった。鹿児島観測所には当時、旧式の地震計１台しかなく、噴火予知は任務ではなかった。

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January 17, 2022 at 09:24AM
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