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<湊ナオのシンシンツクバ>(17)新たな楽しみ 読書会:東京新聞 ... - 東京新聞

読書会メンバーおススメのケアを感じる本(筆者撮影)

読書会メンバーおススメのケアを感じる本(筆者撮影)

 近所に新しいお店ができたのを知り、散歩を兼ねてランチを食べに行く。駅前の公園の休日マーケットで飲み物を買い、芝生にレジャーシートを敷いてくつろぐ。そんなささいなことがむしょうにうれしい。春だ。春なのだ。冬眠からさめた亀がやっとはい出たときみたいにおそるおそる周囲を見渡す。今年こそ、今年こそは、春を全力で楽しんでもOKですか?

 今春、水戸芸術館で『ケアリング/マザーフッド「母」から「他者」のケアを考える現代美術』展が開かれている。その助走にあたる読書会に参加していた。館の部活動的な位置づけで、月一冊、展覧会開始までに計八冊の本を読んでいった。

 本は大好きだが目覚めが遅かったゆえ、ここから巻き返そうと鼻息が荒い。昨今のファストな風潮(映像を早送りで見たり本のあらすじだけ把握するような)に侵食されかけている自覚もある。資料以外の本にも触れなきゃ。じっくり、ゆっくり本と向き合う時間も持つべきなんじゃないか。そう思い立ってからの行動は早かった。

 つくばから高速バスで水戸に行くのはちょっとした遠足気分だ。バスの匂いもいい。常磐道を走るバスに揺られれば一時間なんてあっという間、移動中に読み終えるはずの本はうたた寝中に膝からすべり落ちている。

 展覧会の助走的な読書会では皆で「ことばを耕す」のだという。事前に本を読んでこなくてもいいという呼びかけで気分も軽くなり、ますます遠足気分で参加した。その場で、皆で手分けして一冊の本を読み、担当した部分を紹介。その後、気になったキーワードを挙げて自由に発言していく流れだった。

 この読書会、ものはためしで気軽に参加してみてよかった。初めての場所に行くのは確かに気を使うが、行けばだいたい楽しい。なにより、日常を離れ、普段の生活圏で出会うことのなかったような多種多様な人たちと、本を介してオープンに、フラットに話すことができる。そんな場所ってなかなかないし。

 美術や音楽や舞台に映画、いずれも刺激に満ちて楽しいが、人の意見を聞いたり、語ったりするアフタートークの場がややハードルが高い。ネット経由で対談を見聞きしたり、意見交換したりすればいいのだが、それはそれでまた別のコツがいる。

 それに比べて読書会は、はやりの言葉で言えば『コモンズ(共有地)』とでも呼ぶべき場だよな、とぼんやり思っていた。もちろん良い雰囲気になるのは学芸員さんたち、部活動部長とみんなの協力あってのもの。ある人が気軽に発したひとことに思わぬ回答を与えられる。自分の言葉にうなずいてくれる人がいる。議論でき、かつ、平和ですらある空間ができていた。

 ゆっくり本を読めたかというと、案外慌ただしかったりもしたのだが、今回のテーマのケアとマザーフッドに関連し読了した本が一冊、また一冊と増え、頭の片隅でそのテーマをなんとなく気にかけている状態が続けば、思わぬひらめきみたいなものが降りて来る瞬間がある。その状態は、長編小説の構想をまとめていく過程と似た、たいへん心地がよいものだった。

 勢いづきZINE(個人制作の冊子)まで作ってしまった。私にはもう一つ、書く仲間で作っているライナスの毛布のような読書会があり、仲間の書いたまとめを読む楽しさはそこで教えられたのだ。

 日常を楽しむ。普段と違うことも楽しむ。お外はどうなっているかな。理解の及んでいない世界に少しだけ首を伸ばす。自分の穴ぼこから出たばかりの目に春の光はやたらまぶしい。(作家、つくば市在住)=次回は4月10日に掲載

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